夢と腐のあわいと「乙女ゲーにホモ混ぜんな」について

11・25簡単に追記

 

腐と夢の共存共栄可能性についての話です。

 

「夢と腐は混ぜるな危険」について色々な意見があると思うけどその一つに「乙女ゲーにホモ入れるな」という疑似概念が存在する。

「乙女ゲーにホモ入れるな」とは文字通りそのままなんだけど、主人公ヒロインと攻略対象との恋愛描写に主題を置いたゲームの中で、攻略対象同士の方が仲良くなっちゃってヒロインないがしろだとか、妙なペア推しとか、とにかく「わたしときみ」ではなく「きみたち」にフォーカスされたときに乙女ゲーユーザーから飛び出す苦言がこれだ。

しかし乙女ゲーにおけるニアホモ(あえてこの言葉を使うが悪意はないのでよろしく。BLに限りなく近い非性愛表現とでもしておこう)というのは必ずしも忌避されるべきものではない。商業的にも二次創作的にも、である。
某野菜の名前がついた乙女ゲー会社が作ったアイドル乙女ゲーしかりというかわかりやすく例を挙げると、あれは「キャラ二人が同室」「その上に一人先輩がつく」みたいにして、ヒロイン⇔攻略対象間の関係だけでなくキャラ同士の関係も描くことで乙女ゲー層のヒロイン=わたし派、ヒロイン=オリキャラ≠わたし派だけではなくBL二次創作層の取り込みも成功した一例であると思われる。*1

攻略対象のペア推しというのはもちろんこれに始まったやり方ではなく、かつて乙女ゲーが乙女ゲーではなくネオロマンスと呼ばれいていたころにも見られ、対立する守護星さまたち、神子を守る八葉など、なんとな~く対・ペアにされる男たちというのは散見されたのである。
なにが言いたいのかというと、恋愛の主体が男と女であったとしても、男キャラクター(攻略対象)同士の関わりというのは物語のアクセント・スパイスになりうるわけだ。(もちろん力の入れどころが逆転すると「乙女ゲーにホモいれんな」「BLゲーでやれ」になる危険性もはらむ

ここで「ホモが嫌いな女子なんていません!」と極端な意見を述べるつもりはないが、ホモは苦手であっても男同士の友情・信頼・ライバル心などの濃い感情を伴うぶつかり合いを好む女子は少なくないことがわかる。(逆に原作描写におけるそのような関係を神聖視するあまり「なんでもかんでも恋愛にすんな」と言う場合もある

性愛を伴わないためBLではない、しかし誰よりも強い魂の絆がある。というか男2人ならんでたらなんでもBLである。これってめっちゃホモじゃん!実質BL!腐女子は気軽にそういうことを言う。

ここで本題に戻そう。
初めに言っておくが今回の記事の中では腐はキャラクター間で完結する恋愛二次創作、夢は名前変換可能なオリジナルキャラを投入する二次創作上の「手法」として扱う。
オリジナルBL、ドリーム小説についてはこの場ではとりあえず忘れていてほしい。

つまり、だ。男女の恋愛において男同士の関係はスパイスになりうるのである。
「腐と夢は混ぜるな危険」に対する反論として以下の記事

腐女子こそ夢小説を書くべき論 - 模索中)では「女子BL」「男夢主によるボーイズラブドリーム」が提示された。これは腐作品に夢の特性を用いて踏み込んだ作品群であり、前者はBL世界の観測者としての夢主を、後者はBL世界の登場人物としての夢主を用い、その原作作品の広がりの可能性を示していると考えられる。

腐カプの片方を見つめている一人の女子クラスメイト、同級生の男に想いを寄せる兄の苦しい恋を見守っている妹、部活に命を賭ける彼の勉強を見てやっている男友達の秘めた恋、情報収集のため警察組織のキャラと寝る裏組織の男。「原作に姿を現したことはないし名前も与えられてないけれど、いるかもしれないこんな人」の可能性だ。
そういった「if」でもって原作では描かれていない、けれど存在するかもしれない場所に光を当てているのだ。原作に夢の光を当てて、腐世界を浮かび上がらせる。そんなイメージだ。

 

そこで逆の概念を考えてみる。
「夢作品に腐の特性を用いて踏み込んだ作品群」
「原作に腐の光を当てて夢世界を浮かび上がらせる」
諸説あるだろうし人によって意見は分かれるかもしれないが(予防線だよ)、私はこれを「三角関係夢」としてみたい。

 

腐とはなにか?

ざっくりとした質問だが、夢に対して反発している意見を見る限り「二次BLには異物を入れない」とあるようなので「原作に描写されている部分から想像を深め、キャラクター間の強い感情(恋愛に限らないが)にスポットを当てる」としておこう。

夢小説が原作という大きな海に夢主という飛び石を作って世界を広げるのだとすると、腐創作はその海の中に沈んでいく行為だと感覚的な説明をしてみる。世界拡張・解釈の方向性の違いだ。

 

ここで提示する「三角関係夢」は原作キャラ2人に対する夢主1人の構成だ。男女の区別はないものとする。

もっとも想像しやすいのが男2人に挟まれた女子夢主だと思う。前置きで述べた乙女ゲーにホモ混ぜんな状態にありがちな三人組である。


例えば原作では親友でありライバルでもある対照的な二人がいるとする。

誰がいいかな。黒バスは読んだことがあるので黒バスから引っ張って来てみる。
黒子くんと火神くんがいる。

二人は物語の中心にあるコンビで、バスケは好きだけど体格に恵まれず不遇な目に遭い苦渋も舐めた黒子くんと、バスケが好きで体格にも恵まれたけど鬱屈を抱えず素直に大らかに育ったバスケの申し子みたいな火神くんだ。
この2人がなんやかんやで大会で勝ち進んでいって、自分たちが強すぎるあまりにちょっと歪んだ中学青春時代を送ることになったキセキの世代たちを倒し因縁を乗り越え日本一に輝くまでのストーリーが黒子のバスケだ。

キャラ認識と解釈に納得がいかない方も多いだろうがまぁ私はざっくりこんな風に読んでいる。
二人の出会いはこの作品の中で運命的であり、黒子くんが火神くんと出会ったからこそキセキの世代らが救われ、また火神くん当人も一人ではたどり着けなかったステージにのぼったのだと思う。

運命的なコンビ。対照的なコンビ。まあそれはそれは腐人気もあった。
当然2人の関係についての腐作品、その書いた人が思う「この2人はこんな2人」というプレゼンみたいなものがどっちゃりどっちゃりピクシブに生まれた。

原作時間軸の隙間で恋をしてキスをして、いやキスしなくてもライバルのままで傍にいたいといじらしく想いを殺す黒子くんがいれば高校卒業後アメリカに飛んだ火神くんを日本で待つ国語教師黒子テツヤもいたし、凄まじいバリエーションの2人がいたと思う。
そういう妄想の種というのは基本的には原作の中にあるといっていい。ちょっとしたやり取り、キャラクターブックに描かれた将来の夢、得意な強化、雑誌のインタビューで述べられた小さい情報。

 

じゃあその2人が好きだけど性愛関係にしたくない人って何を読めばいいんだろう?
私自身は腐作品や一次BLについて全く読まない訳ではないけれど、恋愛関係にない方が萌えることが多い。

火神くんと黒子くんにしても部室でセックスするような間柄よりは同じ一年生としてバスケ部員として友達関係にあり、その中のひとコマを切り取ったような二次創作が好きだ。
でもそういうのめちゃくちゃ探しにくい。

あるんだろうけど検索の仕方がわからないぐらい探しにくい。

こういう経験は一度や二度ではなく、某漫画の某兄弟が可愛いな~って思って二次創作を探しにいったとき「○○兄弟」とかでざっくり検索したら腐作品ばっかりで逃げ帰ってきたことがある。
でも仲良くしてる2人が見たい!でも恋愛じゃないんだその2人は双方向に性愛感情を抱くボーイズラブではないんだ!

ってときに、三角関係夢というのはひどく読みたいものに近いことに気付く。


黒子くんと火神くんの話に戻る。
性愛じゃない2人の話が見たい。

そんなときは2人の間にぽいっと夢主を入れてやってみるのだ。夢主の肉付けは完全に自由だ。作中の存在濃度も自由だ。生かしていても殺してもいい、もっといえば登場させなくてもいい。話のタネにするぐらいの濃度でもいい。もちろん夢小説なので2人の間で綱引きされて私のために争わないでと泣いてもいいのだけれど、とりあえず一例として限りなく濃度を薄めてみる。

まず最初のシーンでこうしておく。

黒子くんが火神くんに「恋人ができたけど、できたらできたでどうしたらいいのかわからないですね」とあの二次創作で幾度となく見てきたハンバーガーチェーン店でぼやいてもらう。火神くんはまずびっくりするだろうし、お前に恋人?と問い詰めてもいい。2人の間に会話が生まれる。色んなことを話す。恋人に対してどういう態度でいるべきか、メールの頻度デートのタイミング、キスはまだか。まだですって答える黒子くんにアメリカナイズされた火神くんは早くしろよというかもしれないし、案外初心で逆にもうキスしましたってしれっと答えられて慌てるかもしれない。
原作世界に夢主という存在を投げ入れることで、2人の生き方や価値観を対比させられる、会話を生み出させる、デートの練習とかいって2人で出かけたりさせられる。でもそこに双方向の性愛はなく、描かれるのは初めて恋人が出来た黒子くんと、彼に友人として付き合いたまにアドバイスしたりデートの日にはるか後方から先輩たちとそれを見守るかもしれない火神くんだ。彼らの友情は描かれ、しかし性愛にはならない。完璧だった。

もちろんもっと殺伐としててもいい。

火神くんの可愛い彼女(可愛くなくてもよい)に黒子くんが横恋慕してしまってもいい。体格こそ恵まれなかったけどバスケを愛する黒子くんの前には可愛い彼女(可愛くなくてもよい)を連れた火神くんがいる。火神くんは何でも持っている。バスケの神様に愛されて、恋の神様にも愛されて。ずるい。妬ましい。コンビとして和気あいあいと練習をしながらも、ふと胸によぎる黒い感情。そういうのも可能だ。

ちなみに私はキャラ2人に取り合われるいわゆるバーサス夢も、キャラA→夢主→キャラBの一方通行夢も書いたことがある。

バーサス夢なんて夢主が出てこないシーンはキャラ2人の会話ばかりになるのだが、そのキャラ2人が腐的な意味でなくコンビとして好きだったので書いててとても楽しかったのを覚えている。

一方通行夢もキャラAは夢主を通してキャラBを見ているようなもので「実質BL」みたいな感じだった。


実質BL」これなのだ。
強い感情をぶつけ合う男同士に対してそういうこと言うじゃん。実質BL。
夢主は二次創作においてそれを加速する触媒ともなりうる。
黒子くんは余命短い幼馴染の弱る姿を見たくなくてお見舞いに行けないけど火神くんは手遅れにならないうちに顔を見てやれと黒子くんを叱るし、叱られた黒子くんは失われる幼馴染にこれ以上心を寄せたくないし、彼女の死を実感したくないと火神くんに怒鳴りつけるかもしれないしお互いの胸倉を掴み睨み合うかもしれない。

論点になっているのは入院してる幼馴染だ。でも「黒子くんと火神くんが激しく言い争いとして感情をぶつけ合っている」構造的にはBLみたいなもので、でも性愛がないのでBLじゃない。私はこういうのが見たい。

 

乙女ゲーの話に戻ろう。
攻略対象とヒロインの双方向感情は乙女ゲーである限り恋愛以外に逃れられることは少ない。恋愛にならないこと≒バッドエンドな世界だからだ。

なので攻略対象とヒロインは全力で恋愛をする。恋愛に繋がらないイベントは徹底的に削っていったりもする。キャラ同士でペラペラ喋ってヒロインが空気だと、プレイヤーが寂しい思いをしたりする。

でも好きになったキャラクターについては恋愛以外の表情を見てみたい。

男同士でバカな会話をしてるところも、女には見せない戦いのときの獰猛な表情も、いろいろ見てみたい。ヒロインには全てを見せなくていいし、見せない部分にキャラ本人の本質と魅力が隠れている。(攻略対象じゃないときの方が輝く現象についてもこれである程度説明できる。恋愛することでキャラ崩れが起きるのだ


なのでヒロインに見せない一面を誰に見せるのかというと、同じ攻略対象だ。たまにそのためのサブキャラが配置されていたりもする。ファンディスクで攻略対象になる。嬉しい。閑話休題
キャラクターの対ヒロインペルソナと、対他キャラペルソナの描写のバランスがいいと、「普段こういうキャラでこういう評価だけれど恋愛となるとこう変わる」が丁寧に描けてキャラクターに深みが出る。私が好きな乙女ゲーはこれが上手くて、恋愛として萌えるときめくキュンキュンするのもあるんだけれど「キャラクターに惚れる」現象が起きるのはバランスがいいときだけだ。
それが実質BLにまで行くとヒロインどこいったホモ混ぜんな、となるがそれはキャラとヒロインの恋愛に主題を置いた「乙女ゲー」と銘打っているからに過ぎず、キャラクター同士の関わりというのはそのキャラの魅力描写において必須といっていい。

「夢小説はどんなキャラにもだだ甘な台詞吐かせて恋愛させてワンパターン」みたいな話も聞く。
それに反論できるのがこの三角関係夢だ。
夢主という異物によって原作キャラ間の関係や価値観の差を際立たせたり、新しい反応を生みだしたりできる。物語の主題を原作キャラ2人に当てているので、この場合夢主はマクガフィン的に代替できる存在だったりするわけだ。

 

なんて呼べばいいかな。

実質BL小説。
難しいな。性別はBLに限らないんだけど。
でも「この2人のコンビが好きだけど性愛BLとして二次創作を読みたい訳じゃない」「夢主投入に抵抗感が薄い」人にはこの三角関係的な実質BL夢ってのはけっこう理想に近いものだった。
それだけの話です。

 

 

 

*1:この会社の他の乙女ゲー見てもペア推しなのがわかる。多分成功例として自社内で追従してるんだろう